【日本代表総括】「18年に比べて厳しい試合が多い1年だった」<崔相範女子シングルスコーチ>

アスリートの夢舞台である東京オリンピック。その出場権争いとなる“五輪レース”が昨年4月末にスタートした。国内外の選手としのぎを削る日本代表は、世界選手権やワールドツアーなどの国際大会で多くの好成績を残したが、ここでは、女子シングルスコーチ・崔相範(チェ・サンボム)氏による、2019年の総括を紹介する。(取材日/11月27日:全日本総合期間中行なわれた囲み取材より)

※会見はWTファイナルズ(12月11日〜15日)開催前のため、記事内の成績や世界ランクなどについては当時のまま

――今年(2019年)の総括をお願いします。

崔相範C 五輪レースが始まった年でしたが、世界ランキングはその前年(18年)から上げていたので、選手たちはシードをもらったところから(試合を)スタートすることができました。レース前半は大会があまりなく、体も疲れていなかったと思いますが、後半は大会も多くなり(体の)負担も増えてきたし、他国の選手たちも東京五輪に合わせにきているのを感じました。18年に比べると、厳しい試合が多い1年だったというのが率直な感想です。

それと同時に、いまの女子シングルスは、韓国などから若い選手が活躍しはじめている。そこを警戒しながら、次の1年を戦っていかなければならないと感じています。日本選手に関しては、山口茜選手と奥原希望選手が五輪レースでは少し抜けているけど、その下の髙橋沙也加選手や大堀彩選手がしっかりついてきている。お互いがいい形で争うことで、全体的にレベルアップしている感触もあります。

夏以降はケガに苦しんだ山口茜だったが、WTファイナルズベスト4など、強敵相手にも持ち前の攻撃で白星をつかむなど復調気配

――山口選手のケガについて

崔相範C 7月のインドネシアOP(Super1000)、ジャパンOP(Super750)を優勝した後、腰やふくらはぎなどに痛みが出ていました。そこから3カ月ぐらいは、調整しながら試合に出場。11月ごろにケガが治った状態で試合をすることができました。福州中国OP(Super750)や香港OP(Super500)の試合を見ると、3カ月はやりたい練習ができなかったというところで、体力面や動きのスピードに物足りない部分もありましたが、感覚はだいぶ戻ってきていると私は思いました。

――ケガをしてからプレーに変化はあったか

崔相範C 練習をしていなかったので、体力が落ちていると感じました。試合中では、前半はそこまで問題ないけど、後半の厳しくなった場面で山口選手の(体の)軸がブレて、そこからミスが出ていたなという印象です。

――山口選手のメンタル面について感じたことは

崔相範C 19年の最初はいいパフォーマンスができた時期があったので、そのイメージも彼女はしっかり持っていたと思います。でも、ケガをした後は、自分が思っているプレーや動きに体がついてこなかった。そこに悩んでいるというか、戸惑った時期はあったと思います。ただ、そこはみんなで話しながら練習すれば前の状態に戻れると思っていたし、「2020年の一番の大きな舞台で活躍できるための体作りに目を向けよう」という話もしました。

――奥原選手は優勝こそなかったが、世界ランク1位になるなど充実した結果を残していた。

崔相範C 昨年(18年末)に日本ユニシスを退社して、自分自身で練習環境を準備するなど、工夫しながらやっていたと思います。本人にとっては初めてのことでしたが、練習以外の部分でもしっかりやっていますし、試合への準備もちゃんとできている。以前からしっかりしている選手ですけど、19年はそれ以上に、きちんと試合の準備をしていたと思います。そういう面での成長は大きかったと思います。

――準優勝の結果が多かった点について

崔相範C 本人の“勝ちたい”気持ちが先に出てしまうところが勝負所の焦りにつながっていたと思います。優勝できるチャンスは、山口選手と決勝で対戦したジャパンOPや、11月の福州中国OPなどもありましたが、ほんのちょっとしたことが優勝に届かなかった。彼女はプロとして結果を求めているのもあるし、その気持ちのズレでミスが生まれたのかなと思います。

1年間の結果を見れば、安定感の高さが目立った奥原希望。このまま好調をキープして、大舞台での頂点をしっかりねらいたい

――彼女の持ち味は長いラリーだったが、本人は攻撃の手段を増やしている、と話していた

崔相範C 基本的なスタイルを大きく変えることはありません。身長が高ければ攻撃パターンを変えることができますが、高くないのであれば、ねばりのプレーを中心にしながら、勝負所で1本、2本で攻めるスタイルのほうがいいと思いますし、そういう話は彼女ともしています。攻める機会を増やすということは、一人で動く範囲も大きくなるし、それをやり過ぎると2、3ゲームで足が止まったりして、体力的にも苦しくなってくる。であるならば、一緒にラリーゲームをする中で、17、18点などの勝負所で、自分からポイントを取りにいくことをねらうのがいいのだと思います。

――奥原選手、山口茜選手は前回のリオ五輪を経験している。五輪本番で結果を出すために必要なことは?

崔相範C まだ五輪レースは終わっていない。まずはそこをしっかり戦い、東京五輪のチケットを取ってから、次のギアを一段上げていければ。いまのところは確定もしていないし、下から世界ランクを上げてくる選手もいるので、20年1月から、残りのレースをケガなく戦い、五輪チケットを手にすることを最優先に考えていきたいと思います。

――2人の課題については?

崔相範C 奥原選手は身長が高くないけれども、準備の早さだったりでカバーできている。いまは、体の重心が少し高い印象なので、目線を低くして、もう少し下から見えるように意識するようになってから、反応が少し早くなっているのかなと思います。山口選手は、コート奥からの配球するとき、少しタメを作って打つことを昨年から取り組んでいる。タメを作ることで、相手の動きを一瞬止めることができて、それを繰り返すことで、相手の体力の消耗を早めようという考え。いまは、そこを意識しながらやっています。

――髙橋選手、大堀選手について

崔相範C 大堀選手はいいショットは持っているけど、2ゲーム後半から足が止まって、体力的にちょっときつくなるとキレイなフォームで打てる回数が減ってくる。同じレベルの相手には自分からコントロールできるけど、レベルが少し上になると、まだ相手に振られることが多くなるので、まずは自分のパターンに持ち込めるようにしていきたいなと。髙橋選手はパワーもあるし、いいショットもある。ベスト8、ベスト4の結果も出しており、私から見ると守りから自分のペースに持っていけるような試合が増えているなと思います。

19年は上位大会でベスト8の壁を乗り越えられなかった大堀彩。レース後半戦での爆発に期待
髙橋沙也加は中国OPやタイOPでベスト4の好成績。後半戦も持ち前のパワーで押し込めば、上位進出のチャンスも大きく広がる

取材・構成/バドミントン・マガジン編集部

写真/BADMINTONPHOTO

投稿日:2020/01/03
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