【クローズアップ】桃田賢斗、世界一への軌跡<その2>

東京2020オリンピックは、自身初のオリンピック出場を果たした桃田賢斗。リオ五輪開催時、桃田は無期限の競技会出場処分を受けていた。さまざなことを乗り越えてきた桃田のストーリーを振り返り、その強さの秘密に迫る。※世界一への軌跡<その1>はこちら

2018年の世界選手権で日本男子史上初の優勝を果たして世界1位へと駆け上がると、2019年にはバドミントン史上最多の年間11タイトルを獲得した桃田賢斗

強さの中にある真実

違法賭博問題での処分を経て、復帰した2017年の、桃田の成績を振り返る。海外復帰戦の7月のカナダOPは予選から出場し、本戦の決勝まで進出。ここは常山幹太に敗れたものの、282位として世界ランキングに登場すると、年内に出場したほかの5大会はすべて優勝を果たす。年末には、48位までランキングを上げた。そして18年以降は、ブランクを取り戻すかのように絶対王者への地位を固めていく。18年は、世界選手権で日本人初の男子シングルス優勝を果たしたのをはじめ、Super750以上のワールドツアー(WT)で4勝。11月の中国OPで優勝すると、ついに日本男子としては初めての世界ランク1位に躍り出ることになる。

2019年はもっとすごい。WTなど、16の国際大会個人戦に出場し(棄権を除く)、世界選手権の連覇など、過去最多となる年間11回の優勝を記録。リー・チョンウェイを上回るこの数字は正式にギネス記録として認定され、その間の勝率は実に9割を超えた。桃田は、そこまでの足取りをこんなふうに語っている。

「世界の舞台に復帰したとき、以前より高速化していると感じました。とくに(アントニー・S・)ギンティンや石宇奇(シーユーチー)などが速いし、逆に諶龍(チェンロン)のように、ショットの精度は高くても、動き自体がスローな選手は、勝ちにくくなっているイメージでした。もちろんスピード以前に、”崩れない、やられない”というのが前提にあり、それが一定のレベルにないとまず戦えませんが……。そういうなかで自分は、相手のタイミングを外し、決められないように配球しながら長い試合に持っていくというのが得意な展開です。もちろん、長い試合は苦しいんですが、それが自分のペース、自分の流れであれば、苦しいと思わなくなる。2018年の世界選手権は、ディフェンス主体のそういうプレーで優勝できました」

長い試合、どんと来い……というフィジカルの強さは、体をいじめ抜いた謹慎期間中に身につけている。そして中西コーチによると、桃田の強さはこうだ。

「桃田を支えるのはディフェンスの鉄壁さですが、その土台にあるのは世界最高品質のロビング。ほかの選手とは、バリエーションも選択もまったく違います。単に高さ、深さ、スピードだけではなく、コースも計算され尽くしている。質の高いロビングは、相手の決定力を減殺しますし、もともとレシーブのスキルは超一流です。ロブの深さ、高さ……が絶妙で、相手は100パーセントで打てないので、強打してきても待ち構えていてレシーブから主導権を握る。かりに浅いロブでも、相手の選択肢を限定できる厳しいコースなら、こちらも早く動き出して楽に返せるわけです。あれほど質の高いロビングは、なかなか打てるものではありません。本人は18年ころから『レシーブで勝つ』と口にするようになり、メディアも桃田の守備力を評価するようになりましたが、まずはロビングの質が前提にあります」

日本代表合宿で中西洋介コーチのノックを受ける桃田。世界一の強さは強固なディフェンスで支えられている

なるほど。ある選手が、「桃田との対戦は、まるで詰め将棋。しかも、自分がそこに打つように仕向けられている」と表現するのは、ロビングを中心とした桃田の配球、その精密さにあるのだろう。中西コーチが続ける。

「特筆したいのは、ミスの少なさです。バドミントンの得点は、エースを決めるか決められるか、ミスするかさせるかの4パターンがありますが、桃田はそのうち自分のミスが極端に少ない。ミスの失点がなければ、4パターンのうち残りは+(プラス)、+(プラス)、-(マイナス)。それが同じ割合で発生すればトータルでプラス、つまり点差を詰められる計算になるわけです」

何回も同じミスを繰り返す選手がいますよね……と水を向けたときの、桃田の返答が面白い。

「3本続けてロブをバックアウトするのを見たら、どうして3回も同じミスをするの? と考えます。自分はバドミントンを始めて約20年、何万本もロブを打ってきましたから、たとえば体育館に風があろうが、シャトルの飛びがよかろうが悪かろうが、微調整なんて絶対にできます。もちろん試合特有の緊張やプレッシャーで、いつもの感覚と多少ぶれるのはわかりますが、単なるイージーミスを繰り返す理由がわかりませんね」

まあそれは、桃田の感覚と修正能力が尋常じゃないということでもあるのだが。感覚、ということで驚嘆の話を聞かせてくれたのは、NTT東日本のチーム担当であるヨネックス・矢部拓也さんだ。

「ある日桃田選手が、使っているラケットのうち『この1本だけ、軽い』と。すべて同じはずなのに、おかしいな……と計ってみると、確かにその1本だけ1グラムほど違いました。ただし軽いのではなく、重かったんです。使い込むうちにタオルグリップが汗を吸い、重くなっていたんです。その分、相対的にヘッドを「軽く」感じたんでしょうけど、いったいどれだけ感覚が鋭敏なのか……」。

これには、違和感を持った桃田本人もびっくりしたそうだが、わずか1グラム、である。いったい、どれだけの鋭敏さなのか……。

※「桃田賢斗、世界一への軌跡」<その3に続く>

取材・文/楊 順行

桃田賢斗が世界一になった30の理由

投稿日:2021/07/28
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