【リオ五輪・コラム】タカマツの強さの理由を紐解く

8月16日に開催されたリオ五輪・バドミントン競技6日目は、女子ダブルス準決勝が行なわれ、日本の髙橋礼華/松友美佐紀が出場した。

リオ五輪

試合は韓国ペアを2−0のストレートで下したタカマツが、見事決勝戦進出を決めた。これにより、2人の銀メダル以上が確定。日本にとっては、前回のロンドン五輪で銀メダルを獲得した藤井瑞希/垣岩令佳に続く、2個目のメダルも決まった。

 

そのタカマツと決勝戦で対するのが、デンマークのリターユール/ペデルセンの2人。ベテランの2人は準決勝の於洋/唐淵渟(中国)戦をファイナル勝負の末に下し、決勝の切符をつかみとった。オリンピック決勝は初。昨年の世界選手権準優勝の実績があり、攻撃力が高いペアだ。

 

ここでは、明日18日に行なわれる女子ダブルス決勝をより楽しく観戦するために、タカマツの「強さ」にクローズアップ。2人が世界の強豪に屈しない強さの理由について紹介しよう。

 

 世界ランク1位の実力を紐解く

日本バドミントン界史上初となる、金メダル獲得に王手をかけた髙橋/松友。高校時代からペアを組んで築いた2人のコンビネーションは、世界でもトップクラスの評価を得ている。

この2人の得意スタイルは、後衛の髙橋がスマッシュなどの攻撃で相手の守備陣形を崩し、前衛の松友がチャンス球を決める王道パターンだ。バドミントンでは一般的な戦術だが、トップクラス同士の試合では、このパターンが簡単には決まらない。世界レベルになればレシーブも堅く、女子同士だとスマッシュが一発で決まることも稀だ。また、少しでもスマッシュの球が浮いてしまえば、たちまちカウンターで攻守が入れ替わり、攻撃の主導権が相手に移ってしまう。

 

そこで効いてくるのが、髙橋の「緩急」を使ったアタックだ。スマッシュは野球でいうストレートで、スピードも初速300〜400 キロといわれている。また、カット・ドロップという技は、球速が遅くなるのでチェンジアップなどに例えられるが、とくにドロップは球足が短く、ネットの手前ギリギリに落ちてくる。レシーバーはタイミングが外されるうえに、ネット前に動いて拾うため、余計な動作が増える。当然止まった状態でスマッシュをレシーブするのと、前後に揺さぶられながらレシーブするのとでは、レシーブの「質」に違いが出てくる。

バドミントンは、1秒の間にシャトルが1〜2往復するほどスピーディーな競技だ。一瞬でもレシーバーが迷ったり、反応が遅れて返球が甘くなれば、ネット前で待ち構える松友の餌食となるため、相手ペアにとっては髙橋の豊富なショットバリエーションが大きなプレッシャーとなるのだ。

 

髙橋が強烈なスマッシュ、そしてレシーバーが迷う配球を誘い、相手が崩れて生まれた甘い球を前衛の松友がバシッ! と決める−−。こんなシーンが多くなればなるほど、2人が勝つ可能性はどんどん高くなってくるのだ。

 

個々の力を倍加させるコンビ力

初の五輪で決勝に進出。攻撃力は世界トップクラスだ
初の五輪で決勝に進出。攻撃力は世界トップクラスだ

もちろん、この必勝パターンは髙橋だけの力では成り立たない。攻撃の根底にあるのは、松友の前衛の働きにある。ダブルスの前衛はラリーでの「司令塔」の役割を担うため、この「髙橋=後衛、松友=前衛」という陣形を作るタイミングは、松友の判断に委ねられることが多い。前衛が戦術を実践するタイミングを間違えれば失点につながる。そのため、その判断はもちろん、守りながら攻撃に持ち込むための積極性、決断力も前衛には求められる。そして松友は、この前衛に必要な能力・センスが一流といわれている。

 

それと同時に、前衛はネットに近い距離でシャトルをさばくため、レスポンス力(反応力)が長けていないと、シャトルに触ることができない。また、相手のねらいを読む力や、後衛・髙橋のアタックの意図を汲み取らないと、髙橋→松友の必勝パターンにはつながらない。前衛は目の前にきた球を打ち込む技術を前提に、ラリーの流れ、パートナーや相手の体勢、癖、ねらいなど、すべての状況を先読みしながら攻撃していかなければならないのだ。

 

これまでの日本には、後衛に特化した選手、前衛のうまい選手はたくさんいたが、タカマツにはその高い技術に加えて10年以上ペアとして組んできた成熟度がある。海外の強豪国はペアの組み替えがよくあるため、2人以上の年月を共にしたペアはいない。後衛、前衛それぞれの能力を最大限に引き出すコンビ力こそ、タカマツが世界で勝てる一番の理由といってもいいだろう。

 

2014年、髙橋/松友は世界トップ8で争われる『スーパーシリーズファイナル』を優勝し、世界で戦う自信もつかんだ。トップ選手が参戦する『スーパーシリーズ』でも、今年はすでに3大会で優勝を果たすなど、名実ともに世界のトップに位置づけられている。あとは、世界最高峰のオリンピックという舞台で、金メダルという最高の輝きを手にするだけ。その可能性は十分ある。

 

タカマツの決勝戦は明日18日、日本時間では23時50分を予定している。日本バドミントン界の悲願ともいえる金メダル。タカマツが、きっと歴史を塗り替えてくれるに違いない。

 

文/バドミントン・マガジン編集部

投稿日:2016/08/17
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