【クローズアップ】恩師が語る東野有紗のジュニア時代<その2>

東京オリンピックの混合ダブルスで銅メダルを獲得した東野有紗。ジュニア時代からダブルスの才能を開花させ、全国中学校大会や全国高校選抜大会を制覇。高校3年時の世界ジュニアでは、富岡第一中学校からペアを組む1学年下の渡辺勇大と、同種目初の銅メダルを獲得した。

そんな彼女の強さの源を語る上で欠かせないのは、10年前の東日本大震災での経験だろう。富岡第一中(当時。現在はふたば未来学園中)の齋藤亘監督が、教え子のこと、当時のことを振り返る。

※『恩師が語る東野有紗のジュニア時代』<その1>は こちら

※本稿は『バドミントン・マガジン』2021年4月号に掲載している連載『恩師が語るあの頃—トップ選手のジュニア時代—』を編集・再録したものです。

オリンピックで躍動感あふれるプレーを見せた東野

目標を遂げる気持ちの強さ

東日本大震災後の空白の2カ月を経て練習を開始したものの、私たちの置かれた状況は厳しいものでした。

震災で東日本は大きな被害を受けましたが、中体連の大会は通常通り開催。猪苗代に避難していた我々は、富岡第一中という名称使用が不可となり、猪苗代中として出場することになって、すぐに県大会、東北大会が始まり…と、怒涛の日々でした。

練習不足は明らかでしたし、立て続けに様々なことが起きて、子どもたちも私たちも限界でした。本番の全国中学校大会まであと10日となった頃、3日間だけ福島から離れて気持ちをリフレッシュさせた方がいいと考え、それぞれ地元に帰省させました。

そのリフレッシュデーの最終日、東野は友人と遊んでいて足首を捻挫してしまった、と戻ってきたとたん、私に何度も謝ってきました。でも、一番つらいのは試合を待ち望んでいた彼女です。本番では、ケガを周囲には微みじん塵も感じさせずに戦い抜きました。その結果、チームは男女ともに団体優勝。東野は濱北もも(現・広島ガス)とのペアで個人戦優勝を飾りました。

この時の勝因は、どの選手もプレーではなかったと思います。東野はじめ、全員が震災を経た『気持ちの差』が大きかったのだろう、と私は考えています。

続く12月のシンガポールユースインターナショナルでは、濱北/東野ペアはやりたい放題の試合内容で、見事3位になりました。濱北が東野のいいところを存分に引き出してくれた。私は現地で見ていたのですが、こんなプレーができたのか、と何度も驚かされるほどの大活躍でした。

2011年の全国中学校大会は団体優勝に貢献し、ダブルスでも頂点に。ケガを感じさせない気迫のプレーで、次々と勝利をつかみ取った
団体戦で優勝を果たし、大きなトロフィーを手に笑顔を見せる東野(左から3番目)

〝変革者〞として

富岡一中、富岡高の後輩・渡辺勇大とのミックスダブルスについて、初めて組んだのは中学時代といわれていますが、実は私にはその記憶がありません(苦笑)。

当校の校訓は『変革者たれ』なのですが、渡辺/東野はまさに、ミックスダブルスのセオリーを覆したような、変革者となる選手たちだと頼もしく見ています。

全英オープンでの優勝も本当に驚かされました。まさか、あの種目で日本人が百年の伝統を持つ全英でトップを取るとは。すごいですね。

そんな二人に我々指導陣が何か教えたかといえば、何も教えていません。ただミックスダブルスの機会を与えただけ。二人とも変化に対応できる力を持っていて、実戦の中で育っていったのだと思います。その姿に、こちらも指導者として進化していかなければ、と教えられますね。

それにしても、余計なことを教えなくてよかったと思います(笑)。これからまたどんなプレーを見せてくれるのか。結果にあまり捉われず、やりたい放題やってほしいですね。のびのびプレーした方が、きっと東野有紗の本当の力が出せると思います。

『富岡魂』で戦ってくれることを楽しみにしています。

メダルを獲得後、「富岡」への思いを聞かれ、後輩たちの応援が力になったと感謝。「後輩たちに、混合ダブルスの楽しさやおもしろさを伝えられていたらいいなと思います」とも話した

恩師のまなざし

明るく、天真爛漫

性格を一言でいうと、天真爛漫。誰とでも仲良くなれるところが彼女の良さだと思います。富岡第一中は地元の、同じ小学校から進学してきた子ばかりで、クラスではすでにグループが出来上がっているのですが、東野はクラスでもすぐに打ち解け、たくさんの友だちがいました。勉強もコツコツやるし、学校生活もきちんとしたい、と考える生真面目なところもあり、何事にも頑張る子でした。

好きと苦手がはっきり

いつも楽しそうにニコニコしているのですが、そんな彼女から笑顔が消える瞬間があります。それが長距離走。どういうわけか、苦手なんですね(苦笑)。苦手といえば、好きな練習と苦手な練習もはっきりしていました。好きな練習は積極的にやるのですが、嫌いな練習は消極的。それこそ、いつものニコニコで、すーっと後ろの方に下がっていきました(笑)。そういうところは、とてもわかりやすかったですね。

※『恩師が語る東野有紗のジュニア時代』<その1>は こちら

Profile

東野有紗〈ひがしの・ありさ〉

■1996年8月1日生まれの25歳、北海道出身。富岡第一中-富岡高を経て、2015年に日本ユニシス入社。中学では全中、高校では選抜複優勝。中高の後輩である渡辺勇大とは世界ジュニア混合複で銅メダルを獲得した。以降、社会人でもペアを組み、全日本総合は17年から4連覇。18年全英OPでは混合複で日本人初優勝を果たしている。160㎝、54㎏、右利き、血液型B。

Profile

齋藤 亘〈さいとう・わたる〉

■1972年生まれ、福島県出身。日本体育大を卒業後、2006年より富岡第一中(現・ふたば未来学園中)に赴任した。18年には、全国中学校大会において全種目制覇の偉業を達成。その他、団体戦で3年連続男女アベック優勝を果たすなど、情熱あふれる指導で数々の好成績を収めている。教え子には、桃田賢斗、渡辺勇大、東野有紗など、多くのトップ選手がいる。

 

取材・文/永田千恵

写真/Getty Images、BBM

投稿日:2021/08/06

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