バトミントンTOPバド情報 ≫ 【スペシャル対談】池田信太郎×鈴木啓太(サッカー元日本代表)<前編>

【スペシャル対談】池田信太郎×鈴木啓太(サッカー元日本代表)<前編>

バドミントン・マガジンでこの春からスタートした連載「池田信太郎の日本バドミントン進化論」では、“バドミントンの競技としての価値を高めるために”さまざまな視点から池田氏が思考を巡らせている。7月号では、Jリーグの元浦和レッズ&サッカー日本代表の鈴木啓太氏との対談を実施。現在、鈴木氏が社長を務めるAuB株式会社の顧問を池田氏が務めている間柄ゆえに、二人のクロストークは大いに盛り上がったが、紙幅の都合でカットする部分が続出する事態に…。そこで特別に「対談ほぼノーカット版〔前編〕」をバド×スピ!にて公開します。今回のテーマは「アスリートの役割」についてです!

元トップアスリート同士による対談が実現!(左が鈴木啓太氏)
元トップアスリート同士による対談が実現!(左が鈴木啓太氏)

池田信太郎がアスリートに求む!
「社会的な問題や課題について考えるアスリート像が、一つの理想としてあってほしい」
――今回のテーマは、いまのアスリートに求められる役割や姿についてです。少し前に比べると、ネットが発達してSNSがより一般的になったり、アスリートが置かれている立場も変わってきたと思います。池田さんが、いまのバドミントン選手に求めたいことは?
池田 アスリートに求めることについて、現役時代といまとで、自分の価値観は変わってきています。2020年の東京五輪が決まって、IOC(国際オリンピック委員会)の人と話すようになったり、組織の中に入って、スポーツのあるべき姿を話すことが増えたりしているので。
鈴木 幅広く活動してるよね。
池田 その中で見た、スイスのローザンヌにある「IOCフォーラム」に飾られている、IOCアスリート委員のイランの元選手の言葉が、すごく素敵だった。「ひとたびオリンピック選手になれば、自分の意志にかかわらず、社会のロールモデル(=模範)になっているんです」。
――「社会のロールモデル」というのは、なかなか重い言葉ですね。
池田 自分が競技する中では、「先駆者」という意識を持たないといけないと思っていました。ただ、社会という大きな枠組みになると、そこまでの意識はなかった。でも、オリンピックを2大会経験したり、アスリートとして一生懸命頑張ったというところで、社会の一員として、何かしらリーダーシップを発揮できるような要素があるなと。
鈴木 うん、わかるな。
池田 そういう意識を持つアスリートが多く出てくると、スポーツのプレゼンスというか、スポーツ選手の見え方が変わってくると思う。2020年を一つのラインとして、たくさんのアスリートが頑張っている。それによって、誰と対戦して何対何で勝ったという、スポーツのレガシー(遺産)は残るでしょう。同時に、人材のレガシー、人のレガシーも作っていかなきゃいけない。2020年以降、スポーツが大きく形を変えて大きな産業としてスタートしていくとなったとき、「人」というのが大切だと思う。
鈴木 それは、絶対そうだね。
池田 啓太くんがやっているビジネスもそうだけど、常に成長していかないといけないでしょ。2020年以降、オリンピックに出た人や接点を持った人に、少しでもそういう意識を持ってもらいたい。リーダーシップを発揮して何かやるとか、社会的な問題や課題について考えるアスリート像が、一つの理想としてあってほしいです。
――社会のロールモデルであり、リーダーでありえる人材。
池田 そう。いろいろな問題に対して、自分が現役時代に経験したことを役立てながら、周りと一緒に成長していく。そういうアスリート、そういう人材が、どんどん増えていってほしい。とくにバドミントンは狭い世界だけど、社会性を持ったアスリートが増えてほしいですね。

池田氏は現役時代、オリンピックに2回出場した(写真は混合複に出場した2012年ロンドン五輪。奥は潮田玲子)
池田氏は現役時代、オリンピックに2回出場している(写真は混合複に出場した2012年ロンドン五輪。奥は潮田玲子)

鈴木啓太がアスリートに求む!
「アスリートとして極限をめざし、国を背負って戦ってほしい」
――鈴木さんは、いまのアスリートに求められることについて、どう考えていますか?
鈴木 社会的に、「スポーツをやってきたからこうなんだね」といわれることってありますよね。そこから、社会人として文化を作っていくというところで、信ちゃんがいったように、ロールモデルになる人材が育ってほしいという思いはあります。その半面、人は何に熱狂するんだろう? と考えたとき、僕はその競技を突き詰めることが大事だと思う。
――まずは、競技に向き合い、突き詰めること。
鈴木 はい。先日、メジャーリーガーのイチローさん(マリナーズ)が、ご自身について「研究者」という言葉を使いました。社会がアスリートに求めるのは、熱狂だったり、憧れだったり、アイコン的なものだったりするんですよね。そう考えると、社会的な立場というのは、アスリート自身が作る部分もあるけど、周りが何年もかけて作っていかなきゃいけないものでもあると思う。
池田 うん、そうだね。
鈴木 信ちゃんと意見が違うわけではないけど、アスリートとして、「極限をめざす」というところにフォーカスしてもいいかなと。選手として、社会人としてこうありたいというのはすごく大事だけど、ちょっととんでもない、「大丈夫か、お前?」みたいなヤツでも、競技に対しての熱量や力は、アスリートならではの部分だから。周りのことは我々が作るから、そこを突き詰めてほしいという思いはあるかな。
池田 うん、その思いは同じだね。
鈴木 時代を作っていく人って、型破りなものだから。そもそも、「型」がなければ型破りにならないけど、サッカー界では、それはある程度できあがっている。そこから、自分が日本のサッカー界を引っ張っていく、スポーツ界を引っ張っていく、日本を引っ張っていくという意識になってほしいです。
――その競技だけじゃなく、日本という国を引っ張る。
鈴木 国を代表して戦うんだから、日本を引っ張るという気持ちでやってほしいです。自分自身もそうだったし、信ちゃんも日の丸を背負って戦っているときは、そういう気持ちだったでしょ?
池田 もちろん!
鈴木 国を背負って戦う人が、「自分がやる!」という気持ちでないと、周りは真剣に応援できないですよ。「スポーツは参加することに意義がある」というけど、参加して満足しているだけじゃダメ。アスリートとして、一歩でも前へ、一歩でも上をめざしてほしいです。

豊富な運動量と高い守備力で浦和レッズはもちろん、日本代表としても活躍した鈴木氏
豊富な運動量と高い守備力で浦和レッズはもちろん、日本代表としても活躍した鈴木氏

競技にとっての「観客」の存在
「全日本総合で優勝して、観客がいないことに気づいた」(池田)
――周りの応援という言葉が出ましたが、観客の存在は大事ですか?
池田 僕は2006年、全日本総合で初めて優勝したとき、観客がいないということに気づいたんです。それまでは、自分のパフォーマンスしか気にしていなかった。そして、優勝して表彰台に上がった瞬間、周りの景色が見えたんですよ。
――会場が伝統の代々木第二体育館から駒沢総合体育館に変更されて、観客が特に少なかった年ですね。
池田 そうです。メディアは来ていたけど、とにかく観客がいなかった。でも当時は、どうやって自分が一番になるかしか考えていなかったから、本当に目に入っていなかったんです。表彰台で手を振った瞬間、「ウソ! 人、少な!」って(笑)。そこから、「なんで、自分が一番頑張った大会で、こんなにお客さんが少ないんだろう」と考えるようになりました。
鈴木 僕は信ちゃんと真逆。無観客試合(※)を経験して、いろいろなことを考えた。いつもたくさんの人が見にきて、ゴールを決めたらみんな喜んでくれて、熱狂でスタジアムが揺れるような感覚がある。ゴールを奪われたら、ブーイングとか文句が聞こえてきたりする。それが、点を取っても取られても何もない。
――普段のJリーグからは、想像もつかない世界ですね…。
鈴木 スポーツは「熱」なんだなと、あらためて思いました。そう考えると、信太郎の経験は悲しいね。
池田 うん。そこで、集客ができていないとか、周りがどうとかいう話になるんだけど、そもそも選手自身が、応援されていることをあまり感じていなかったり、そういう概念がないように見えることもある。観客の存在までアンテナが張れるかどうかで、競技のとらえ方って全然違うと思うんだけど。
鈴木 そこは大事だと思うよ。
池田 バドミントンは個人競技だけど、自分個人さえ勝てばいいという考えは間違い。何のために応援に来てくれるのか、そこを考えることは大切だと思う。もっといえば、試合ができるのは対戦相手がいるからだし、周りのサポートがあるからだし、日本代表の組織があるからだし…、そういうところに敬意を持てていない選手がいるとしたら、大きな問題。最低限のリテラシーは持つべきだと思いますね。

※無観客試合…2014年3月23日、浦和レッズvs清水エスパルス戦(埼玉スタジアム)が、観客なしで行なわれた。2週間前の浦和vsサガン鳥栖戦で、浦和サポーターが人種差別的メッセージを掲げたことに対する処分。Jリーグ史上初のことだった。

池田氏が全日本総合で初優勝を遂げた2006年。大会最終日にもかかわらず会場は空席が目立っていた
池田氏(右)が全日本総合で初優勝を遂げた2006年。大会最終日にもかかわらず会場は空席が目立っていた(左は坂本修一)

競技を極めることと競技以外のバランス
「サッカーには先人が作ってくれた環境がある。それが人を育てる」(鈴木)
――アスリートは競技を極めることと並行して、競技以外の部分を意識することも大事ということですね。そのバランス感覚は、どう養っていくべきでしょうか。
池田 
学べることは、種目によって違うと思うんです。啓太くんはサッカーで、大勢のファンがいる中で学べたことがある。それは、バドミントンのような競技で学べることとは、ちょっと違うのかなと思う。
鈴木 そうかもしれないね。
池田 
とはいえ、同じスポーツとして大切だと思うのは、オリンピック金メダルとかワールドカップ優勝とか、まずは競技としての結果。オリンピックで金メダルを取ったことがないからわからないけど、それはすごく大事だと思います。
――まずはアスリートとして、その競技で結果を出すこと

池田 
ただし、メダルをぶら下げておけば、ずっと一生、“優先レーン”で歩いていけるわけじゃない。だから僕は、実力的に強いか弱いかはちょっと脇に置いて、競技を一生懸命やる中で自分が何を学べているか。そこは、考えてやっていました。
――やはり、バランスが大事。
池田 
そう思います。それは引退して別の仕事をしても、人に負けないところですね。支えてくださる方とのコミュニケーションだったり、人からの見られ方だったり、ビジネスマナーだったり、さまざまな社会性を伴うことは、現役時代から学ぶべき。周りから見られれば見られるほど、自分の見方を客観視できると、すごく感じていました。
鈴木 
信ちゃんって、バドミントン界では特殊なタイプじゃない?
池田 
…そうかもね(笑)。
鈴木 
どうしたら、そういうタイプが多く育つか考えると、環境が整わないと難しいんじゃないかと思う。だって、自分が応援してもらっているかわからない中で、周りから見られることを意識しろといわれても、それは無理でしょう。
――確かにそうですね。
鈴木 
少し時間がかかっても、いろんなところが一つずつ、機が熟すのを待たなきゃいけないかもしれない。それでも、変えていく必要があるんじゃないかと感じます。僕が偉そうにいうのもナンですけど。
――サッカー界で育った鈴木さんの意見は、貴重だと思います。
鈴木 
もちろん、サッカー界も成長しなきゃいけないことはあります。でも、僕らの場合、先人たちが作ってくれた環境がある。それが人を育てていると感じますね。

競技は違えど、第一線を走り続けた者ならではのトークがさく裂!
競技は違えど、第一線を走り続けた者同士。対談はテンポよく、そして深く展開された

メディアとの関係性
「注目競技として、選手自身が学べることもたくさんある」(池田)
――いまのバドミントンの競技レベルだと、東京五輪に向けて、メディアに取り上げられる機会、注目を集める機会は、さらに増えそうです。
池田 大会本番がテレビ放映される可能性は高いし、注目競技として、他の競技をごぼう抜きする可能性はすごくありますね。そうなったとき、自分のパフォーマンスを発揮するのは大前提として、それ以外のところも非常に大事。「周りがいて、自分がいて」ということがわかっている選手が、一人でも多くいることが大事だと思います。
――観客との関係性に加えて、メディアとの関係性も求められる。
池田 はい。うまくできればバドミントンの価値が高まるし、選手が学べることもたくさんある。そこまでできている競技なのかどうかで、扱いは大きく変わると思います。
鈴木 正解がないことだから、トライ・アンド・エラーでやっていくしかないよね。サッカーの選手会は協会とすごくもめたことがあって、お前らプレーさせないぞ、ぐらいにいわれたこともあったし、ルールがいろいろ変わった。バドミントンはプロじゃないし、労働組合とかもないだろうから、難しいとは思うけど、選手が自分たちでやるべきこともあるはずだから。変えないといけないのは、そこからかもしれない。
池田 うん、そうだね。
鈴木 信ちゃんが、頑張って変えていくんでしょ(笑)?
池田 いやいや、陰ながら見守っていきます(笑)。
(つづく)

◇プロフィール
いけだ・しんたろう◎1980年12月27日生まれ、福岡県出身。九州国際大付―筑波大―日本ユニシス。2007年世界選手権では男子複で3位となり、日本の男子選手として初めてメダルを獲得したほか、08年北京五輪(男子複)、12年ロンドン五輪(混合複)にも出場。15年9月に現役を引退し、現在は世界バドミントン連盟アスリート委員を務めるとともに、メディア活動などを精力的にこなしている。東京五輪組織委員会アスリート委員。

すずき・けいた◎1981年7月8日生まれ、静岡県出身。東海大一中―東海大翔洋高を経て2000年に浦和レッズに入団。引退する15年まで浦和一筋でプレーしMFとして活躍した。06・07年にはJリーグベストイレブンに選出。日本代表としても国際Aマッチ27試合に出場している。現在はAuB(オーブ)株式会社代表取締役社長。アスリートのパフォーマンス向上、ヒトの健康維持につながる腸内細菌の解析を進めている。AuB株式会社のHPはこちら

取材・構成/バドミントン・マガジン編集部
写真/矢野寿明


投稿日:2018/07/13
■関連キーワード