【連載①】「DUORA」はこうして作られた~革新ラケットの開発秘話~ <第1回・技術開発部の挑戦>

2015年9月、ヨネックス株式会社が発売した「DUORA10」。後に「7」「6」「Z-STRIKE」と続くDUORA(デュオラ)シリーズは、バドミントン界のエポックメーキングとして、語り継がれていくであろうラケットだ。

最も大きな特徴は、表裏が異なる形状であることだ。ラケットの表面と裏面を使い分ける発想がなかったバドミントンにおいて、フォアハンドで使う面、バックハンドで使う面を区別することを提案した。

いまや、世界のトップ選手から一般のユーザーまで、幅広い層に受け入れられている画期的なラケット、DUORAシリーズ。それは一体、どんな発想から生まれたのか――。技術開発の現場から解き明かしていく。

 

第2回 マーケティングの戦略は>> こちら

第3回 商品化から発売、そして“拡散”へ>> こちら

最終回 シリーズ完成! そして、その先へ――>> こちら

 

★「表裏異形状」ラケットへの挑戦

 

ヨネックス DUOR
ヨネックス新潟生産本部。世界中の多くのプレーヤーから愛されるラケットは、ここから生まれる

 

新潟県長岡市に建つ、ヨネックス新潟生産本部の工場。

ヨネックス社の技術開発部は、この地にある。主な業務は、ラケットの素材、形状、構造などに関する基礎研究。そして、新商品の開発へとつなげていく。世界のトッププレーヤーが愛してやまない道具は、ここから生まれていくのだ。

表裏の形状が異なるラケット「DUORA」。その画期的な発想も、バドミントンを見つめる地道な研究からだった。

 

DUORA物語
技術開発部の大熊伸江氏

技術開発部・大熊伸江はこう話す。

「まず着目したのは、バドミントンのプレースタイルの変化です。以前はスマッシュをバンバン打ち込んで、積極的に攻撃するスタイルが主流でした。それが近年、フォアハンドでもバックハンドでも攻めるスタイルに切り替わっている。『フォアとバック、両方のパフォーマンスを引き出すラケットが必要なんじゃないか』という発想が、DUORA開発の第一歩です」

バドミントンのラケットには、表面と裏面という区別がない。両面に違うラバーを張って使い分ける卓球とは大きく違う。しかし、フォアハンドとバックハンドを比較すると、スイングの性質は大きく異なっている。

フォアは肩から腕全体を使った大きなスイングで、徐々に加速する。バックはヒジの回内運動を使ったコンパクトなスイングで、一瞬で加速する。

「それぞれのスイングに合った形状のラケットを作ってみよう」

2011年、まだ誰も見たことがない、表裏異形状ラケットへの挑戦が始まった。

 

★遊び心からの手応え、そして、不安――

ヨネックス DUORA物語
技術開発部の大谷和也氏

ラケットの表面と裏面の形状を、違ったものにする。開発現場の大熊ですら、「違和感はありました」という。同じく技術開発部・大熊の上司である大谷和也は、笑って振り返る。

「形状設計は、遊び心から始まる部分もあるんです。打ち応えのある打球感でパワーを蓄える『ボックス形状』と、空気抵抗を抑えて鋭く弾く『エアロ形状』。もともとあった二つの技術を、ただくっつける形で試作品を作ってみました」

「ボックス形状」をフォア面、「エアロ形状」をバック面とする。すでにあった2種類のラケットの型を貼り合わせて、最初の試作品ができた。

「球持ちと弾きという打球感の違い、振り抜き(スイング)の違い。これはいけるな、と思いました」(大谷)

ヨネックス DUOR物語
「DUORA」シリーズにおけるフレーム部分の断面図。フォア面とバック面が違う形状になっている(ヨネックス株式会社カタログから)

 

しかし、大熊は、「お客様に受け入れられるのか…、不安のほうが大きかったです」と明かす。製品技術としての手応えを感じた大谷にも、その思いはあった。

それでも、製品化へと歩み出した表裏の形状が異なるラケット。もちろん、まだ「DUORA」という名前もついていない。

ヨネックス DUOR物語
現在発売されている「DUORA」シリーズ。左から、10、7、6、Z-STRIKE

 

<文中敬称略/第2回へ続く 取材協力/ヨネックス株式会社>

 

 

投稿日:2017/03/22
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