【世界一への軌跡】 桃田賢斗&奥原希望「日本一から、世界一へ」

初の世界一に輝いた桃田賢斗
初の世界一に輝いた桃田賢斗

ちょうど1週間前の全日本総合で大きな優勝カップを手にした2人が、今度は世界の舞台で価値ある勲章をつかんだ。わずか8名(組)という限られた精鋭同士の戦い。スーパーシリーズファイナルは普段のトーナメントと違った緊張感はもちろん、1戦1戦の質が高いゲームとなる。それだけに、選手の疲労度は相当なものだ。

連戦を勝ち抜いて手にした世界トップの座。大会の歴史、参加人数などに違いはあるが、全英オープン、世界選手権、オリンピックなどの世界一をかけた試合で男子シングルスが優勝を手にしたのは初めて。女子シングルスでは、77年全英オープンを制した湯木博恵以来の快挙となる。

先に世界の強固な扉をこじ開けたのは奥原だ。決勝戦の相手はロンドン五輪銀メダル、世界選手権優勝の実績がある中国の王儀涵。予選リーグでは王適嫻(中国)、ラトチャノック・インタノン(タイ)に勝って準決勝に進み、その準決勝も再戦となったラトチャノックを12本、13本で退けていた。

奥原と王儀涵の対戦成績は奥原の1勝2敗。ただし、10月のフランスOPでは奥原が13本14本で王儀涵から勝利を奪っており、3月の全英OPでも敗れはしているが善戦だった。特段苦手意識がある相手ではなく、奥原にも優勝の可能性は十分にあった。そして始まった決勝も、奥原が第1ゲームを22—20で奪い、第2ゲームも最大6点差のついたスコアをひっくり返しての逆転勝ち。強敵をストレートで沈め、女子シングルスでは初の優勝となった。

奥原の勝利後、満を持して登場したのが桃田だ。相手のビクター・アクセルセン(デンマーク)は同世代のライバルとして、ジュニア時代から互いに意識してきた長身選手。対戦成績は今回の予選リーグの結果も含めると4勝1敗で桃田がリードしているが、その対戦では19—21、21−15、21−15とファイナルゲームの接戦。試合時間55分という数字は、男子シングルスで行なわれた1 5試合のなかで最長時間を記録していた。

今回も接戦が予想されたが、試合は完全に桃田の時間となった。第1ゲームを15本、第2ゲームは10—8から8連続得点で勝負を決めた。日本選手による2連続V。若い2人が日本の歴史を塗り替えた瞬間だった。

 

日本一という称号を胸に

アベックV達成の桃田賢斗と奥原希望
アベックV達成の桃田賢斗と奥原希望

世界ジュニアをともに制し、若くから活躍を見せていた桃田と奥原。しかし、世界トップを相手に連破しての優勝は、多くの人が予想できなかったはずだ。ただ、彼らが飛躍するきっかけは確かにあった。それは12月上旬に行なわれた全日本総合で優勝したことだ。

桃田は初の総合V、そして奥原は4年ぶりの優勝。2人がそれぞれの優勝会見で語った言葉のなかに、共通するキーワードがある。

「日本のエースとして」

これこそが、2人が持つ真の力を、大舞台で解放させる要因になったのは間違いないだろう。名実ともに日本一を手にした事実は、連戦の疲れを吹き飛ばす原動力になったはずだ。

その伏線となった話がある。昨年の全日本総合だ。桃田は決勝で敗れたことを振り返ったとき「結構へこみました。優勝できると思っていたので、本当に悔しかった」と語り、ケガからの復活Vにかけた奥原はまさかの初戦負けに「悔しさというより、情けなくて…。涙って枯れないものだと体感しました」と、そのときの心情を吐露している。

2人が対面した挫折。そして両者ともに、この敗戦から立ち上がった。桃田は「あまり好きではない」というトレーニングの量を増やしフィジカルを強化。好き勝手にしていた食事も、栄養士のアドバイスを受けながら摂るようになったという。奥原は膝のケガの怖さを乗り越えながら、練習でレシーブやドライブのバリエーションを増やすことに取り組んだ。

その成果は先に桃田に現れた。4月のシンガポールOPで男子シングルス初のスーパーシリーズ(SS)制覇を成し遂げ、6月のインドネシアOPでは2度目の優勝をつかんだ。8月の世界選手権では、同種目史上初の銅メダルも獲得。

一方の奥原は、総合1回戦負けながらも、それまでの海外での結果が評価されてなんとか日本代表に残留。そこからは一歩一歩、着実に成績を積み重ねた。SSのマレーシア、インド、シンガポールOPで連続8強。5月のスディルマン杯では、日本の決勝進出につながる貴重な1勝をもたらした。そして記憶に新しい9月のヨネックスOPジャパンでは、決勝で山口茜を下しての優勝。世界ランクも日本最上位をキープするまでになった。

そんな2人が絶対に欲しかったタイトルが、全日本総合だった。世界でいくら勝利をおさめても、日本一の肩書きがないことで、どこか素直に喜べないもどかしさにつながっていた。だからこそ、総合でようやく頂点に立ったとき、2人ははっきりと「日本のエース」という言葉を発した。その表情は、どちらも何か吹っ切れたような、そして世界で戦うための大きな武器を手に入れたような、自信に満ち溢れていたものだった。

世界を制する予兆は、そこにあったのだ。

5月から始まった熾烈な五輪レースは、来年からいよいよ後半戦がスタートする。ランク上位選手には五輪出場の当確ランプが灯りそうだが、何が起こるかわからないのが五輪レースの怖さだ。突然のスランプに陥ることもあれば、大きなケガを負うことだってある。それは世界の頂点に立った桃田も奥原も同じだ。

ただ、今回2人がつかんだ栄光は、まだ見ぬメダルへの道標になったことは間違いない。総合でつかんだ自信は、世界で勝てる自信に変わった。あとはその道を信じて、ひたすら前に進むだけ。きっとそれが、五輪でのメダルにつながっていくはずだ。

投稿日:2015/12/14
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